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人工膝関節置換術パンフレット

2016/01/24

人工膝関節置換術について

1 人工関節って何?

(ア) 人工関節の歴史:
① 人工関節は約40年前に開発されました。太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)と、脛の骨である脛骨(けいこつ)の表面を金属に置き換える手術は、1950~60年代に初めて試みられました。その後、1962年にCharnley(チャンレイ)によって金属とポリエチレンの組み合わせの磨耗の少ない人工股関節が導入されたのが始まりで す。
② 手術成績も安定して良い結果が得られるようになり、今度は1970年代になって膝関節について本格的に人工関節置換術が普及されるようになりました。ある程度満足のいく結果を残せるようになったのは、1973年にI/B型という人工関節が出て、現在普及している手術方法の原型が出来上がったのです。ですから人工関節置換術の歴史としては、股関節で50年、膝関節では40年も経過していないまだまだ歴史の浅い、比較的新しい手術方法といえます。

2 人工膝関節とは?
(ア) 人工関節置換術の殆どの手術は膝関節と股関節で占められています。ここでは、人工膝関節置換術について説明していきます。
(イ) 人工膝関節置換術は英語で「Total Knee Arthroplasty ( TKA )」とか「Total Knee Replacement ( TKR )」と表記され、それぞれ略して「TKA」とか「TKR」と言われています。さて、人工膝関節置換術は、「変形性膝関節症」や「関節リウマチ」などの疾患によって、破壊され変形した膝関節の痛みのために歩く事が困難になったり、日常生活に大きな支障を来たす患者さんに対して行われる手術です。
(ウ) 人工膝関節置換術を簡単に説明すると、関節の壊れてしまった骨・軟骨の部分を切除して、人工関節を埋め込みます。人工関節は金属(コバルトクロム合 金やチタン合金)と超高分子ポリエチレンで出来ています。わかりやすい例えで言えば、歯がダメになった方に対して再びものがしっかり噛めるように入れ歯に するようなものです。つまり、人工膝関節は膝関節の「総入れ歯」と同じようなものであることをイメージしてください。
(エ) 1950年代に始まった人工膝関節置換術ですが、当初は成績が安定せず現在まで様々な製品の改良や手術手技の改善が繰り返されてきました。その結果、人工膝関節置換術の成績は近年極めて安定して良好な結果を示し、今では患者さんが安心して受ける事の出来る手術になってきました。
(オ) 安定して結果を残せるようになって以来、この人工膝関節置換術は年々増加しております。2004年のデータでは、1年間に日本で約4万例もの人工膝 関節置換術が行われました。今では高齢化や手術手技の普及によって、更に増加し続けています。ちなみに、人工関節の先進国であるアメリカでは、この人工膝 関節置換術は日本と比較してずっと一般的であり、毎年20万例以上の手術が行われています。そのため、日本とは異なりアメリカを始め海外では「人工関節専門医」として、人工関節の手術を専門にしている整形外科医によって行われています。日本ではまだ少ないですね。ですから、アメリカでの人工関節専門医の経験は日本と比べ物にならないくらい多く、知識や技術も優れています。もちろん、日本人は元来とても勤勉で器用ですから知識や技術は負けていませんが、経験ではなかなか追いつけません。

3 手術の目的は?
(ア) 人工膝関節置換術(TKA)は主に変形性膝関節症、リウマチの痛みに対する手術です。膝はまっすぐになりますが曲げ伸ばしには殆ど影響しません。

4 手術に適した年齢は?
(ア) →変形性関節症の場合、人工膝関節は主に70歳以上の高齢者に適応があり(人工関節の寿命が15年くらいであるため)、日本では年間6万例以上の手術がおこわなれています。
5 どんな手術?また具体的な手術の方法は?
(ア) →傷んでしまった軟骨を切除して、人工の関節(金属製)に取り替える手術です。金属どうしでは摩擦が大きいので、高分子ポリエチレンが間(脛骨側)にはめ込まれます。また膝蓋骨の軟骨も痛んでいる事が多く、これも交換(ポリエチレン)します。
(イ) 膝関節の正中を約15cm程度縦に切開し、膝関節内に進入します。靭帯を剥離して、内反(O脚)を矯正します。軟骨をノミや電鋸で切除して、金属製の人工関節をセメントで固定します。リウマチでは膝蓋骨も置換します。十分に洗浄して、縫合します。

6 麻酔の方法は?麻酔がさめたら痛いのでは?
(ア) →麻酔科の先生による全身麻酔(または腰椎麻酔)で手術は行われます。完全に術後痛みなく過ごせることはありませんが、可能な限り腰椎硬膜外麻酔やブロックを併用して、術後も痛み少なく楽に過ごせるようにお願いしてあります(腰椎の変形や疾患等で行なえない場合もあります。この場合、術後は坐薬や注射などで痛みに対応します)。

7 リハビリは?入院期間は?
手術の翌々日くらいから体調に応じて膝を曲げる練習(術後1週間で90度が目標です)、痛みに応じて歩行練習が始まります。術後約4週で退院される方がほとんどです。退院時は安全のため、一本杖で退院となります。膝の曲がりは手術前と同程度になっていることが目標です。

8 手術をすると絶対に痛みがとれますか?
→術後3ヶ月程度は膝が熱っぽかったり、鈍い痛みがありますが、その後は徐々に良くなるようです。しかし違和感や軽い痛みが長く続くこともあるようです。手術に「絶対」はありませんが統計上98%以上で手術結果に満足されているというデータが大多数です。

9 人工関節をすると膝が曲がらなくなると聞いたのですが・・
→人工関節は「痛みを軽減させる」目的の手術であって、曲がるようにする手術ではありません。このため、手術前より曲がるようになることは少なく、多くの方が手術前と同じ曲がる角度程度で退院されます(ただし練習は必要です)。手術前より曲がらなくなる方もいますが、比較的少数です(3%くらい)。

10 人工関節は長持ちしないと聞いたのですが・・
→人工関節の一つの大きな問題点として、その耐久性が挙げられます。
人工関節はかつて、年月とともに金属の部分がすり減ったり、骨とつないだ部分が緩んだり、細菌などによって感染してしまうなどが原因で、人工関節の耐用年数は10―15年とされていました。しかし、最近は耐久性に優れた材質が使用され、緩みが少ないデザインの製品が開発されたことにより、その耐久性はアップしてきています。現在、使用されている人工関節の耐久性は、患者さんの全身状態などにも影響を受けますが、15~20年以上耐久性があるといわれています。
11 手術は絶対安全ですか?
→手術に絶対安全なものはありません。残念なことに1%程度に以下に述べる合併症が報告されています。
人工関節手術の重大な危険性:

12 感染 (0.5%程度)
(ア) 最も確率が高く怖い合併症は感染(バイキンが入る)です。人工関節は非常にバイキンに弱く、一度バイキンが付いてしまうと、再手術を余儀なくされます。
(イ) 感染は術後、異常な発熱、膝に膿(うみ)が溜まることなどで明らかになります。
(ウ) 感染してしまったら数日以内に切開洗浄術が行なわれます。それでも感染が治まらない場合、人工関節抜去、抗生剤入りセメントの留置、(感染の沈静化後に)再手術、再置換と複数回の手術が必要となります。感染が良くならない場合、最終的に人工関節留置できないこともあります。
(エ) 当院ではありませんが、感染が治癒せずに大腿から切断したという話を聞いたこともあります。
(オ) 感染の予防として以下の対策を行なっています。
① 手術までの入院期間の短縮
(イ) 手術までの入院期間が長いと院内感染の原因となるため、入院は手術1週前からとしています。
② 重度糖尿病などは治療する
(イ) 重度糖尿病(糖尿病では感染率が3倍程度といわれています)や低栄養、過去に膝にバイキンが入ったことがある方、皮膚疾患のある方、85歳以上の方では感染率が高いので手術を行わないことが多いです。
③ 術直前、術後抗生剤の点滴
④ 手術中の感染予防策
(イ) 人工関節専用クリーンルームで手術を行っています
(ロ) 人工関節専用ヘルメット(通称宇宙服)を使用しています
(ハ) 徹底した手洗い、術野皮膚消毒、術中清潔操作を行なっています
(ニ) ジェット洗浄器での大量の術野洗浄を行なっています
(ホ) ゴム手袋は二重にして使用しています
(ヘ) 手術時間の短縮に努めています(手術時間が長いと感染率が高くなるため)
⑤ 以上のように徹底した感染対策を行なっていますが、それでも感染が生じた場合、速やかに対処いたします。

12 重大な深部静脈血栓症、エコノミークラス症候群 (0.1%以下)。
(ア) 人工関節は足に血栓を作りやすい手術です。軽い血栓なら足が腫れる程度ですが、
① 血栓が肺に飛ぶと胸痛、胸苦という症状が出て、肺梗塞(足の血栓が肺に詰まってしまう)となり最悪の場合突然死してしまいます。発症した場合、循環器内科に検査治療を依頼します。
② 血栓が脳に飛ぶと脳梗塞になってしまいます。これも最悪の場合、命にかかわります。
(イ) 血栓症による肺梗塞は致死的ですので以下の予防策を行っています
① 手術時間の短縮化、弾性ストッキングの着用
② 長時間の臥床を避ける
(イ) 寝てばかりいることは血栓症の温床となります
(ロ) リハビリは出来るだけ早く始めています(が、リハビリ以外でも足を積極的に動かしましょう)
③ 抗血栓症薬(血が固まらないようにする)の注射
(イ) あまりたくさん打ちすぎると出血が止まらなくなるので、採血等のデータをみて調節します
④ 脱水の予防
(イ) 術後当日は点滴で水分補給しますが、ご自身でも適度な飲水(スポーツドリンク)をお願いします。

13 術後出血
(ア) 人工関節置換術は整形外科手術のなかでも出血が多い手術です
(イ) 貧血が予想される場合、高齢者の場合、出血による血圧低下が続く場合、術中や術後に輸血することがあります。
① もともと貧血の場合、輸血の可能性が高くなります
② 輸血は必要最小限でおこなっています
③ 血が少なくなると心臓に負担がかかるため、より高齢者ほど(75歳以上)輸血をする傾向があります
④ 輸血する場合、同意書が必要なため改めて説明があります
⑤ 術中など緊急の場合、口頭での同意になることがあります


14 人工関節の緩み
(ア) 通常15年もつといわれていますが、何らかの原因で人工関節が緩んだ場合、再手術が必要になります。
(イ) 人工関節が緩んできたり磨り減ってきたりすると痛みの原因となります。このため退院後も定期受診(最低年一回程度)が必要です。

15 以上、予防に努めますが、発生した場合すみやかに対処します。

16 最後に・・・

手術を受けるということは患者さん本人もとより患者さんの家族も不安なものです。

実際、注射やリハビリなどで長期に渡って膝の痛みを我慢し、とうとう耐えられなくなって手術を受ける患者さんがほとんどです。

確かに人工関節手術は100%安全というものではありません。

実際、一部の患者さんが感染や血栓症などの合併症で現在も苦しんでいらっしゃいます。

しかし膝の痛みは下肢筋力低下につながり歩行困難、更には転倒→骨折を引き起こし、寝たきりの大きな原因(寝たきりの原因3位~4位です)となっているのです。

(なお1位は脳血管疾患、2位は高齢による衰弱です)


寝たきりになると、患者さん本人のみならず、介護する方の時間的肉体的負担、そして家の改修費用など、様々な負担がかかってきます。

このことを考えると膝の痛みを治しておくことは「寝たきり予防に大きな効果がある」と考えられます。

これからの超高齢化社会では「寝たきり予防」が重要です。

このことから、数パーセントの危険性を説明のうえ、治療を受けて頂いているのが人工関節手術の実情です。

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以上、人工関節手術の説明ですが、疑問点などは手術前に気軽に聞いてください。
また最近ではセカンドオピニオン(他の医師の意見を聞く)も一般的となっています。不安があったら他の医師に気兼ねなく相談し、納得のうえ手術を受けてください。